なつかしい梅干の味よ

  真夏、どの農家の庭先にも梅干が干してあった。悪童は、通りすがりに失敬して口に入れた。その味、その硬さ(やわらかさ)が味覚の原点となった。

 いまでも妹が作って、送ってくれる梅干が食卓を支配している。
 群馬(上州)の梅干という宣伝がある。妹の梅干も「群馬の梅干」である。
 いざ味を見せてもらおうと、ネット購入した。

 90グラム入り4個。皮はやや強い(こわい)。果肉は、ぐっとやわらかく、程よくしょっぱい。上品な雰囲気がただよう。この上品さは、妹の梅干にはない。農家の庭先の梅干にもない。

 戦時中の中学生である。農家に勤労奉仕に行く。まず、おばあさんが砂糖の配給がなくてね、といいながら梅干を箸でつまんでくれる。これも妹の梅干、庭先の梅干と同じである。こういう「群馬の梅干」は市販されていないのだろうか。