みんな持ってってくださいよ
みんな持ってってくださいよ、と言われても、いささかためらいがある。自分で捕まえて、袋に入れなくてはならない。捕まえる自信がない。というよりも、どこを押さえるんだっけ、とうに忘れている。
わき腹を押さえる。なんと手を伝わって腕に這い登る。そうだ、つのを捕まえればいいんだ。こうして何匹か捕獲するが、わが家や近所に男の子はいないぞ。
何匹いることか。カミキリムシもいる。チョウチョもいる。クワガタはいない。抱きかかえられないほど太いクヌギ。樹液を飲みにきたところを一網打尽では気の毒か。
それにしても、よく落ちる。這うことはベテランではないようである。拾い上げてやる、せめてのホトケゴコロ。五月になると、コイノボリがへんぽんと舞う農家、五歳の孫がいる。さだめしカブトムシを自由に飼っている、と思いきや、虫ぎらいだという。
クヌギの樹液があっても、カブトムシはわいてくるわけではない。わく「現地」がある。おばさんが教えてくれたが聞かなかったことにする。