阿修羅の顔はいくつか

 奈良興福寺から東上した「阿修羅展」は東京国立博物館をにぎわせた。初日から1万人の観衆で、博物館側では混む時間、空いてる時間をメールマガジンで知らせていた。ならば開館時間に行って見ようということで、5月某日、出かけた。
 先頭集団に入っていて、まだ日が強くならない頃を拝見してきた。驚いたことがある。入館すると、一斉に走り出すのである。釈迦の十人弟子も阿修羅のグループ八部衆も通過するのだ。一番早く、観衆のいない阿修羅に会おうというのである。だれがそういう知恵を授けたのか。
 ともかく阿修羅は、上から下から、前から後ろから、じっくり拝見した。三面の顔、そして後ろには顔はないことを確認させてもらった。
 会津八一の歌がある。
 ゆくりなきもののおもひにかかげたるうでさへそらにわすれたつらし
 けふもまたいくたりたちてなげきけむあじゆらがまゆのあさきひかげに

 後日、朝日歌壇にこういう歌が掲載されていた。
 学徒らは死を諾なひて征きませり昭和の阿修羅いくつ顔もつ

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