芥川龍之介の「偸盗」を読む

 エビネについて歳時記を見たら、化偸草と出てくる。なんの解説もない、この草名から、龍之介の最長編「偸盗」を思い出し、春宵一刻値千金を読書した。
 角田光代らの若い世代の小説ばかりになじんでいると、龍之介もいた、漱石もいた、ということを忘れてしまう。時代の中に生きているから仕方がないのかも。
 今昔物語が材源の小説は、泥棒の、美しくもみだらな女親分への兄弟の恋愛を絡めたもので、邸宅に押し入った泥棒隊とサムライの合戦の模様が、すごい描写で書き連ねられている。
 「偸盗」とは、ドロボーのこと、盗賊だと分かるけれど、辞書をみる。すぐ引用される岩波の広辞苑、拙宅のは古い版だが、「小説。芥川竜之介作。大正六年作。(中略)平安末期の京都の暗い世相を描く」とあり、「偸盗」そのものの意味は、仏教の五戒または十戒のひとつ、物を盗むこと。ぬすびと、盗賊、などとある。
 ドロボーをしてはいけません。小説「偸盗」の女賊は、兄弟によって殺されたようである。「大体、こんな事があったらしい」で終わる。