好きなことやらなくちゃあ

 ある町のクリニック。待合室。
 高齢者のおじさん、おばさんが話している。
 「もうね、すぐ80だよ、好きなことをやらなくちゃあね」
 受身気味のおばさんが頷く。めがねを忘れた当方は、ぼんやり話を聞いていたが、パッと目が合う。にやりと笑っている。アドリブがでない。まごまごする。
 なお、当方を見ながら、「ねえ」とおばさんに言う。
 好きなことを、これからしようというのか、もうしているのか、判然としない。聞くわけにはいかない。 診察が終わって、二人にまた薬局で会う。
 「その駅前に、じいさんがじっくり入れてくれるコーヒー店があるんですよ。行きましょう」
 おばさんが頷く。また、当方ににやりと笑いかける。当方も、そのコーヒー店に行くつもりだったが敬遠した。好きなことのスタートを確認することもないだろう。患者同士のおばさんハントか。
 クリニックで会うことなどないだろうが、おばさんと一緒のコーヒーの味を聞くセリフぐらい用意しておこう。薬剤師に名を呼ばれる、ハーイ。

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