『卒論「ランボー」』半世紀ぶりの復活

 フランス文学科を出た友人のM君が、保管が難しくなったと言う理由で、卒業論文が大学から戻ってきたという。そういうこともあるのだろう。しかし、友人はそれを読み返し、手を入れ、上梓したのである。すでに半世紀が経っている。新卒論という「偉業」である。
 アルチュール・ランボー。15歳から19歳にかけての短期間に詩を書き上げ、文学と決別した早熟な天才詩人。なぜ文学を放棄したのか、その原因を探るのが卒論のねらいだったらしい。散文詩集に『地獄の季節』と『イリュミナシオン』があるが、後者を中心に論じている。
 小林秀雄訳の、
 ああ、季節よ、城よ、/無疵なこころが何処にある。
 そのあたりを読みかじっただけの身には、『イリュミナシオン』を、ただ呆然と読むだけである。そして、半世紀後の奮起に頭が下がるだけである。この『卒論』には原詩を書き込んだ筆者の絵が数枚ついている。絵も描ける才能をもっているようで驚いた。
 卒論主査は村上菊一郎助教授だった。もう20年も昔になるが、村上氏が亡くなったとき、門弟が『村上菊一郎訳詩集』を編んだ。手許に一冊ある。『イリュミナシオン』の訳詩もふたつ。「放浪者たち」の最後を、いきなり引用しておこう。
 おれはといえば、落着く場所と言い表わし方とを見つけようとあせりながら。
 当方は、いつもあせっています!