あなたはだれでしたか

 だれがだれやら分からない。63年ぶりの小学校の同窓会。去年第一回を開いたらしい。
 記憶能力が、もともと欠如しているのである。こちらの名を呼びながら来てくれる人はいるけれど、顔を見ただけでは、それに胸につけた名札だけでは、遠い記憶はかすんでいる。だから、五つの円卓に35人が座っている中に入り込んで、やあ、こんにちはと声をかけられない。
 宴たけなわになって、ビールに酩酊し、じっと見渡す。いま俺はどこにいるのか、不可思議な思いの中にいる。ひょっとしたら浦島太郎だぞ、俺は。いいや、俺だけが浦島太郎であるはずがない。目の前に浦島太郎がいるし、浦島花子がいるぜ。

 おい、みんなを何と呼ぶんだい、「さん」をつけるか、それとも呼び捨てか。
 
 宴の始まる前に、そう聞く浦島太郎もいた。
 だれがだれやら分からないのに、呼び捨てに出来るはずがない。
 やっと同定できたおばさんを、さん付けでよぶと、なんだか快感めいた気分になる。

 筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
                         伊勢物語