酒のありがたさ

 「酒のありがたさ」を語るのは、若山牧水である。
 「一度口にふくんで咽喉を通す。その後に口に残る一種の余香余韻が酒のありがたさである。単なる味覚のみのうまさではない。」
 随筆「酒の讃と苦笑」の中でそういい、その冒頭で、こう詠んでいる。
 それほどにうまきかとひとの問ひたらば何と答へむこの酒の味
 「私は独りして飲むことを愛する。」としてあの有名に一首も出てくる。
 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり
 
 読売の「編集手帳」で、きょう8月24日が牧水生誕120年であることを伝え、51日の九州の旅で、一日平均二升五合、一石三斗を飲んだ紀行文を紹介している。酒と旅の歌人も120年ということに驚く。死去は昭和3年9月17日、43歳。
 歌のみずみずしさは、なお生きている。
 雲ふたつ合はむとしてはまた遠く分れて消えぬ春の青ぞら(「海の声」)