どっと「星の王子さま」

 岩波版だけだった「星の王子さま」が、独占的な翻訳出版権の消滅で、各社から新翻訳本が出されている。
 内容は同じだし、日本語の言葉遣いが違うだけだが、それぞれ読者層を絞っての出版ということらしい。子供向けの岩波版を読みなれてきた身には、別衣裳の王子さまが出現したことに興味を持つ。サン=テグジュベリも目を見張るだろう。
 手ごろなところで、集英社の池澤夏樹訳の文庫版を読んだ。横組みである。別の本を読んでいるような気がする。例のキツネと仲よしになるところを、「王子さまはキツネを飼い慣らした」とある。この方が原語に近いのかもしれない。
 キツネの名言は控えて置きます。あのキツネが洞穴の中から、たぶん王子様を見ている絵、もちろんどちらも同じだけれど、どうもキツネらしくないなあ。
 上野千鶴子先生は、少女時代に何度も読み返したと、「めったに言わない」ことを書かれているが、新訳本がすべて大人向けだとすれば(それは読まないと分からないが)、子どもの読書は、岩波版に戻っていくのだろう。

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