あわれ!興福寺の国宝仏頭

 高さ98.3センチ、銅造・鍍金、天武4年(685年)。白鳳文化期を代表する興福寺の国宝仏頭が東博の広い展示室に、ただ一つだけ、薄い光のなかに在る。
 「貴公子を彷彿させるものがある」という。貴公子ではなく、親しい、やわらかな面影を感じて見上げる。ここまではいい。しかし、裏に回り後頭部を見上げると、愕然とする。剥ぎ取られて、後頭部はない。
 正面から見るだけでよかった。すでに拝む雰囲気はなく、銅造・鍍金のモノがあるだけである。
 旧山田寺講堂の本尊だったという。大化改新で活躍した石川麻呂の私寺、告げ口で石川麻呂が自害、近親者14名が殺され、さらに9名が絞首刑、15名が流刑。後日、石川麻呂の無罪がわかり、山田寺の伽藍が整い、講堂の本尊丈六仏が鋳造されている。これが興福寺に残る仏頭という。
 仏頭彫刻鋳造も解説されていた。それを仏頭が見ている。私の後頭部が治るわけじゃなし、と言うように。
 興福寺創建1300年記念の特別公開である。

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