大空真弓は献花なし卵葬
献花はいりません。ゆで卵を「献玉」してください。ほかの人の献玉を持ち帰ってください。そのとき、すてきな塩をお渡しします。
この奇想天外な話が、『大空真弓、多重がん撃退中!』(宝島社)の中に出てくる。祭壇に飾る遺影は、生後5ヶ月の赤ちゃんで、本の中に掲載されている。
読者は、女優・大空真弓のファンか、がん対策に熱心な方か。その両方とも満足されるような構成になっている。
乳がんになり、胃がんになり、食道がんにまで遭遇し、その「多重がん」を、女優という仕事をこなしながらの闘病がすさまじい。医師の克明な解説などまじえ、大空の一人称ではあるが、医療ジャーナリストの大谷克哉氏のペンの力が発揮されている。有名人と一般患者とは違うなあ、とは思うけれど、がん対策ガイドになっている。
多重がんという絶望的な状況を「撃退中!」の後半は、未熟児で生まれ、いつ死ぬかもしれず出生届けも出し遅れた話から始まり、破天荒な一家の履歴に突き進む。新東宝入社から今日まで。肩凝り、冷え性に悩み、卵こそ神様であるという。
多重がんと闘い、剛毅な生一本の性格で生きている女優に、読者は何をもらうのだろうか。溜息かも知れない、わが身の不甲斐なさを恥じるかも知れない。
大空真弓が、すぐそこにいる感触が残ることは確かである。