富国強猫 いい熟語だ
上質紙を使ったタブロイドの「ねこ新聞」(月間、カラー8ページ)をもらってきた。題字下に、猫好きなら喝采を博するような、「富国強猫」とある。その昔、「富国強兵」で踊らされた経験のある世代には、ぎょっとする熟語だが、相手は猫のことだ。
その富国強猫に「猫がゆっくりと眠りながら暮らせる国は心が富む国」という解説がついている。これが新聞の信条なのだろう。手元にあるのは10月号である。
すべてレイアウトがゆったりしている。1面は、やなせたかしの「街の灯を見る猫」。窓枠に座った猫が、外を見ている。星ひとつ、雲のひとひら。三つのビルに灯がともっている。絵の下に朔太郎の詩『青猫』の一編15行。
ああ このおほきな都会の夜にねむれるものは
ただ一匹の青い猫のかげだ
絵もいい、詩もいい。タブロイドを抱えて、あるいは猫を抱いて、読者は詩人になる、行間に我を思い出す。2面には、源氏物語の猫の話。物語の54帖の中に、猫が出てくるのは「若菜」上下の中だけと言う。源氏物語を読んだのはいつのことだったろうか。
94年に創刊、1年後に休刊。2001年に復刊、編集長の原口緑郎氏は、車椅子の生活らしい。猫が人間を観察しているのにならい、世の中を品よく風刺したい、という。ペット情報はない。猫好きが、あるときは詩人になり、あるときは紙面に同化して楽しもうと言うことか。読者の投稿もゆったり編集されている。
http://www.nekoshinbun.com/