膝の美しき

 北杜夫さんが、奥さんになった人のことを、「彼女はかなり短いスカートをはいていて、膝小僧がなかなか可愛く見えた」と「私の履歴書」(日経)の中で書いている。このことはエッセイでも書いたら、膝小僧だけで結婚するとは何事だと抗議されたそうである。
 膝小僧で結婚するのもいい。昭和36年のことである。奥さんの感想はない。
 室生犀星に、こういう句がある。
 紅梅(うめ)生けるをみなの膝の美しき
 「遠野集」の一句で、これは昭和34年に刊行されているが、以前のものもあるようである。北杜夫さんと違って、短いスカートではないと思う。梅を生けている娘さんがいる。ロングスカートの膝が盛り上がっているか、着物の下の膝がむっちり見えたか。
 紅梅は、隣にもう一句ある。
 紅梅さげしをみなに道をたづねけり
 その紅梅をさげた娘さんの膝のことか。句を読んでの読者の想像は自由で楽しい。どっちにするかな。犀星は読者のケツダン待っているようでもある。