日本一木を植えた男
本気になって木を植えよう、本気になればたいていのことはできる!
NHKの番組で「日本一多い木を植えた男」というのがあり、植物学者の宮脇昭氏が、麦わら帽子をかぶり、民家の庭に木の苗を植えていた。そして冒頭のような呼びかけをしていた。氏に面識はないが、懐かしい気がし、がっちりと健康そうな姿に安心した。
氏の「植物と人間・生物社会のバランス」(NHKブックス)が出たのが、昭和45年、すごい啓蒙の書だったことを記憶している。農道の真ん中にオオバコの群落がある写真。勤労奉仕で、リヤカーに稲苗を積んで農道を運ぶ。リヤカーを押すのも曳くのも、そのオオバコの上を歩く。裸足が痛かった。
農道のオオバコは、踏みあと群落という。かわいそうな植物に見える。かわいそうだから、そこに柵をすれば、オオアレチノギク、ヒメジョン、ブタクサなどに占拠され、オオバコは消滅するという。
青森県種差海岸の道をスケッチした日本画家の東山魁夷は、昭和25年に「道(みち)」を描き、戦後日本画史に名を刻む作品となった。その道にオオバコ群落はない。草一本もない。
市川市東山魁夷記念館がオープンした。草のない「道」を見に行った。「道〔試作〕」が展示されていた。麦わら帽子の宮脇氏の屈託なさそうな、苗木を持つ姿が目に浮かんだ。