コーヒーはどれにしますか
同人雑誌のMLに、こういう短歌を書いた。
深煎りと浅煎りを挽きて比ぶれどモカの風味は捕らえがたかり
味覚に自信はない。コーヒーを飲むけれど、家で淹れるけれど、それだけの話である。かなり前のことだが、アートコーヒーでは、社長がコーヒーを淹れ、出社してきた社員に銘柄を質したと言うウワサを聞いた。東京駅の八重洲口にアートコーヒーの喫茶店があり、よく行ったが、アートコーヒーの店舗にはあまりお目にかからない。
豆がよくても、焙煎がよくても、淹れ方で違いが出るだろうし。
西船橋駅の構内に「西船珈琲研究所」という厳粛な名前の喫茶店がある。注文すると、どれにしますかと言う。驚くべし、六種類から選ばなくてはならない。
バランス系、果実系、苦味系、重厚系、炭火系(備長炭使用)、香り系(有機栽培)。
「甘い香りとさわやかな酸味のバランスのとれた珈琲」というバランス系を注文する。当研究所の女性従業員が、さっと豆を挽き、満を持していたサイフォンにかける。カウンターがいい。手さばき鮮やかなサイフォンショー。ヘラで一回かき回せばOKである。研究し尽くされたコーヒーの味。
次々にサイフォンショーは繰り返される。凝視が続く。いやな客と思われるかもしれない。せめてモンブランケーキを注文して…。