書は美しい、されど見えず

 一日を残すだけとなった東京国立博物館の「書の至宝」展を土曜の午前中に見てきた。日本と中国の書の歴史を実物で解き明かしてくれるはずであった。
 しかし、中也の言う、
 あゝ おまえはなにをして来たのだと…
 早春の風に言われそうである。
 平成館での、「現代書道二十人展」を再見している間に会場は混み始めていた。実は眼を病んでいる。壁に貼ってある展示品のタイトルさえおぼつかない。それほど視力が落ちていることに気がつかなかった。
 それで、和漢朗詠集の漢詩と和歌の併記のいくつか、藍紙本万葉集、それに千字文など予定してきたものは眺めてきた。千字文は行ごとに書体を変えているようだった。万葉集のひらがな部分を、二人のご婦人が読み解いている。観客はストップしたままだ。私もくっついて眼下のひらがなを凝視した。それは見えた。
 その程度でいいと、展示室を出たら、観客の縦隊が控えていた。出口には、確か4時間待ちとかの表示があった。まだ12時半だった。

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