うなぎのミステリー


 水槽の中を泳いでいるのは金魚と当家の主人が釣って来たタナゴ。この水槽には、もう一匹うなぎが隠れている。姿は見えないが、たぶん夜な夜な現れて、金魚の尾びれなどを食いちぎる。
 3年ほど前、海釣りで主人が10数センチのうなぎを釣って来た。水槽に入れたが姿を隠した。上部にある濾過器から直径2センチほどの管を通って浄水が流れ込む。そこを逆上し、濾過器の内部にもぐりこんで住み着いたのだ。
 濾過器の中は暗い。気に入った。ときどき下界に下りてきては、金魚たちと戯れたか。しかし、3年である。直径2センチを出入りできなくなる。主人も姿を見ることがなくなった。
 生きていることは簡単に納得できる。酒の肴のイトスルメがある。これを濾過器の端の水がたまっているところに差し込むと、ピクピックっと動き、たちまち引き込まれる。うなぎ君が食べているのだ。
 主人に、イトスルメをもらって実験しながら、客は井伏鱒二の「山椒魚(さんせううを)」を思い出す。首がでっかすぎて外に出られないサンショウウオのことを。それでも、そこには鮭がいたことも。
 うなぎよ、君は何を考えているのか。ことしもサクラは散ったよ。

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