浮き出る般若心経


 すすきが揺れ、奥深い、人里離れた山中、百号を三枚並べて三百号の大作、たなびく白雲。ひょっとすると異界かと思う。字が書き込まれている。
 モチーフは同じような絵を見せてもらったことはある。そのときは字が書き込まれていることを気づかなかった。般若心経である。
 今回の三百号には、だれでも気づく大きさで書き込まれている。右端の百号に、観自在菩薩…で始まり、左端百号には、ぎゃてい・ぎゃてい…般若心経で終わる。絵の鑑賞者は、般若心経の世界を絵で誘われ、唱和したことになる。仏様を山中に、まみえたことになる。
 鎌倉にアトリエを構えている内藤範子さんの絵が、5月29日から6月3日まで、銀座の中和ギャラリーで開かれた。案内文に、
   青葉木莵啼きマクベスの森となる
という一句があった。俳人でもある。あの三百号はマクベスの森であったか。

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