尊厳死と創作の間
「群像」の創刊60周年記年号がある。600ページを越す。40数年来、本屋が配達してくれるから「芸術新潮」ともども増え続ける。ひとつだけ読んで納得できれば、それでよい主義である。そのひとつだけが、吉村昭の、三人の追悼記になりそうである。
2年前には、「新潮」の100周年記念特大号が出たばかり.550ページ。何か読んだはずである。「群像」には平成8年に50周年記念号、昭和63年には「新潮1000記年号」が出ていて、貧しいわが書棚に押し込められている。
追悼記は、瀬戸内寂聴、大河内昭爾、秋山駿の三氏で、男性二人は大手術のあとらしい。新聞でも報じられたが、尊厳死が語られる。舌がんから膵臓がんに転移していて、自宅療養を望み、「死ぬよ」と言って、カテーテルを抜いたという。
40編近い短編の特集である。尊厳死から抜け出て、造り書かれた世界の多彩さに、ただ呆然としている。