まむしめしの炊き方
小説新潮が750号になったそうで、同誌に掲載された作品の中から、「名短編」12編を北村薫と宮部みゆきが選出している。昭和20年代の「川口松太郎・媚薬」「林芙美子・水仙」「十和田操・押入れの中の鏡花先生」を読んだ。
働く気もない息子を扱いかねている42歳ママの、芙美子作品が、なるほどと思ったが、鏡花先生で弟子の新聞記者との応答がすごい。「蝮(まむし)を米の中へ放り込んでたいた蝮飯というのを、きみは食べたことがありますか」というのは鏡花先生である。
弟子が答える。「蝮は放り込まれると、あっと言ったなり毒気を吐く間もなく、僅かに首をもたげ得ただけで、蛇体はスーウと煮えくりかえっている米の中へ…」と話は気味悪くなる。
このへび飯の話は、漱石の『吾輩は猫である』にあるそうで、鏡花にも『蛇くひ』があり、さらに荻生徂徠にまで話が飛ぶのは北村薫の調査・研究の結果ということになる。長いものはきらいです。何とか読み終えて溜息をつく。鏡花先生らしい世界である。十和田操という人の作品を初めて読んだ。