信長の遺骸があった!


  「しかし、好奇心を持つことは長生きの秘訣の一つでございますぞ」
 そんなセリフが飛び出してくる。
 言われているのは、「信長公記」の作者太田牛一である。このミステリーでは、牛一が全編の主役として登場する。牛一は、熱烈な信長ファンである。信長に関する書き物を探し、話を聞き、「信長公記」を書き進めてゆく。
 同時に、信長十七忌までに杳として行方の分からない遺骨を探し出す努力を続けている。これが、このミステリーの最大の眼目である。作者の博覧強記が、その時代背景と共に描出されてゆく、小気味よさが読ませる。
 安土城で、余命を保っている秀吉が、牛一を呼び出し、「信長記」を読ませ、秀吉に有利な記述に変えさせるあたり、迫力がある。秀吉のど根性が、どどっと牛一に襲いかかる。やがて秀吉は死ぬ。呪術を解かれたような遺骨探し、さて…。
 牛一が信長好きの理由として、「加算できる評価の山が、ほかのどの英傑より飛び抜けて高い」というところがある。だから後世のいまでも、小説に評論に信長ものが書かれるのだろう。その一角の、斬新なミステリーである。
  「信長の棺」加藤廣著 日本経済新聞社発行 定価(本体1,900円+税)