悩み続ける孤島のクルーソー
賢くなるのに遅すぎるということはないのだ。
そうですねえ、と思う。何か日本の格言に似たようなものがあったと思うけれど思い浮かばない。これは、28年2ヶ月と19日、絶海の孤島に暮らしていた「ロビンソン・クルーソー」が、どうやら蛮人どもがやってきたらしいことに気づき、思案をめぐらしている。まだ人食い族のひとりフライデイは従卒にはなっていない。
「なんか事がおきてそれをやるかやらないかというとき、微妙な暗示か予感を心に感じれば、私はためらうことなくその不可思議な指示にしたがうことにしたのである。」そこで、冒頭の文が出てくる。これを神のひそかなる告示だから、とする。
たった一人での生活だからか、彼は、ときに逡巡し、悩み、しばしば思考の闇に溶け込んでしまう。冒険小説ではなく、思考が繰り返されている。そう思いながら共に孤島に住んでみれば、全く別のクルーソーが現れ出る。
落ち着いて23年目を迎えるのだが。 (平井正穂訳・岩波文庫)