ここはどこの細道じゃ

  天神様の細道ではない。地方都市の、れっきとしたホテルの宴会場である。集うは喜寿を越えた男女27人の小学校同級会である。小学校卒業時から初めて会ったのもいる。開催3回目で、一度欠席したから2度目の逢瀬である。
 遅生まれだから、みんなお兄様、お姉さま。名前を思い出せないどころではなく、とんと記憶にない顔ばかり並んでいる。生地の字(あざ)を言われても頷けない。寂しい、記憶の弱い人間である。
   ふるさとは遠きにありて思ふもの
 詩を読みあげたが、みんなふるさとに住んでいるから、感動されない。悲しくうたうのは、遠路参加のわれ一人である。それでも、村の小学校で一緒に過ごしたという思いが、気ままにさせる、気楽にさせる。男性はともかく、女性はまろやかな、程よいおばあちゃんに見える。応対ぶりに懐かしさを覚える。
   通りゃんせ通りゃんせ
   ここはどこの細道じゃ
   天神様の細道じゃ
 ここはやっぱり慣れ親しんだ細道だ。天神様があったかどうか。校庭にはくすのきの老樹があった。だから韮川小学校くすのき会という。

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窓の明りで本を読む少女