ほととぎすが鳴く、私は泣いた
東京国立博物館の「宮廷のみやび・近衛家1000年の名宝」を茫漠として眺めてきた。私はここに何しに来たのかと無念の思いだった。
掛け軸は見える。いきなり藤原鎌足像。美男の壮年像、ひょっとしたら藤のつく我が家の祖先かもしれないよ。ここまではよかった。あとは混雑でガラスにさえ近づけない。古今和歌集などには近づけない、もちろん。ぐっと腰を下ろし、ガラスの最下部にはひらがな表記があるが、老眼鏡を出しても腰を下ろすことは不可。
ひとつぐらいなんとか。伝藤原行成「和漢朗詠集」の断簡。博物館ニユースの助けを借りてひもどく。見事なひらかな書きの歌一首。
ほととぎす はなたちばなの かをとめて なくはむかしの ひとやこひしき
鳴くは昔の人や恋しき 平安時代屈指の古筆の遺品だという。朝早く、もう一回行くか。