[⑥]出雲 これが出雲そば
八重垣神社からタクシーが連れて行ってくれたのは松江駅。駅ビルの中に豪勢な土産店が勢ぞろいしていた。それよりも昼食である、出雲そばである。出雲そばには、こういうことを思い込んでいた。出雲そば通のグループの言葉である。
つけだしに麺を少しつけ、噛まずにつるりと喉ごしを楽しむ、これはよそでやってもらいたい。出雲のそばはじっくりとよく噛んで、そばの香りをしっかりと味わっていただきたい。そば好きの松江の殿様・松平不昧も「少し辛めのつゆをつけてよく噛んで噛んで食え」と言っている。
そうか、そうか、分かったよ。それで昼食時満員の席に割り込ませてもらって待つ。てんぷらはいらないよ、そばだけでOK。朱塗り三段重ねの割子そば、それに汁をかける。濃いからご注意、それも通の注意にあった。かなり堅めである。ズルズル、モグモグ。薬味三種類をかけて食べる、噛む。
出雲そばといっても、みんな県外産ですよ。運転手の言葉がひらめく。まあいいさ。でもおいしいですね、うまいですよ。二枚終わって、やや満腹。隣の女房のてんぷらをもらって三枚目。通ならぬ身には結構な味ですね。それを分析的・文学的な感想で言い表せない無念さ。もう一回、どこかで食べよう。