[出雲①〕 築地松なつかし


  京都から下関に至る国道9号線、それを出雲から松江に走る。広い、出雲平野。穀倉地帯で、米はコシヒカリという。
  タクシーの72歳の運転手が、あれが築地松だという。ツイジマツの発音が聞き取れない。やっと築地松にたどりつく。
 農家の、それも旧家らしい家並みの後ろに、その築地松を背負っている家が目立つ。冬の日本海からの季節風を防ぐ。それぞれの体裁、デザインが違う。父祖伝来の姿なのだろう。写真が撮りたい、と言うと運転手が喜ぶ。撮りやすいところを探してドアを開ける。こういうお客さんはいないんですよ、と。
 わがふるさとは関東平野で、赤城の空っ風に痛めつけられるが、北側に木々を負った家は少なくなった。出雲でも築地松は少なくなっていると言うが、ふっと郷愁めいた思いがする。日本海と赤城の空っ風とはスケールが違うだろうが、日本人の思いは同じか。
 築地松と言う名前もいいね。一度、そこに吹き付ける海風を聞いてみたい。 島根県、出雲市、斐川町と、その住民による築地松景観の保全運動があるという。農村の生活文化の一環である。

次の記事

[出雲②] さすがは宍道湖