初夢はあはれ顔なき汝が乳房

    初夢はあはれ顔なき汝が乳房
 大正9年生まれの真鍋呉夫さんが、句集『月魄』(巴書林)を出された。つきしろと読むらしい。新聞の俳句時評で読んだ。冒頭の句を紹介している。
 平成5年に、真鍋さんが第二句集『雪女』で読売文学賞をもらったことがある。その代表句が、
   花冷のちがふ乳房に逢ひにゆく
だった記憶がある。出版記念会に会いに行った。女性に取り囲まれていてごきげんだった。あれから何年経ったのだろう。文芸雑誌で真鍋さんの短編小説を読んだし、阿川弘之氏との対談も読んだ。健在なのである。
   密會の窗より高し梅雨の驛
 あくまでなまなましいが、その実体を描写しているのではなく、むしろ虚構の美へ読むものを誘う、という意味のことを時評氏は言う。
 亡くなった尾形仂さんが、「写生に呪縛された現代俳句に欠けるのは蕪村俳句にある艶笑性ですよ」と語ったことを、宮坂静生氏が言っている。
 写生に呪縛されているのだろうか。

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