軍国少年、早苗に思へらく
慈恵の柏病院には毎月行く。病院前には田んぼが広がっていたが、駐車場と薬局の乱立?でだんだん少なくなってきた。その田んぼに早苗が育っている。風が揺るがせている。
群馬育ちは昔を思い出す。それも終戦時の田んぼのことだ。学業などは忘れてしまって、軍国少年は宿泊の勤労奉仕が続いていた。群馬は麦刈りが終わってから田植えをする田んぼになる。二毛作である。遅い田植えである。
苗をリャカーに乗せて苗代から一本道を運ぶ。
「おい、グラマンが来たらどうする」
「逃げるんだ」
「どこへ逃げるんだ。グラマンは爆音がすると、もう頭上に来ているんだぞ」
「ダダダダダダ」
終戦1ヶ月前の勤労奉仕は、たちまち中止になった。夜は焼夷弾を降らせるB29が東北爆撃の帰りに田んぼに残った焼夷弾を振りまいていった。昼と夜が戦場になってきていた。
慈恵前の田んぼの稲のすくすくとした生長を毎月眺めている。わがやまいは、すくすくというわけにはいかない。田んぼに蛙を見ることはない。