あわれモグラよ、共存はムリ


    放置されて数年、草木が生い茂っていた農地が整備された。何が出来るのかは分からないが、そのあちこちにモグラの巣が噴出した。さすがは農地だったからか、きれいな茶色の畑土が盛り上がっている。コンクリートでも流されれば、あわれ一巻の終わりになりそうである。
 モグラは定住者だという。歌人の永田和宏氏が新聞のエッセイに、「モグラの雪隠茸」と言うのを書いている。もっとも京大の相良名誉教授の研究の引用だが。
 地下定住者のモグラにとっては、トイレ掃除が大問題だと言う。排泄物は微生物によって分解され、残る尿素やアンモニアなどの処理に、ナガエノスギタケという「モグラの雪隠茸」が活躍するそうだ。巣から長い柄を伸ばし、地上に子実体(きのこ)を作ると言う。コンクリートなど流される前に、掘り返してみてやろうとは思うが、そこにモグラがいたら、おっかなびっくりの観察者は仰天するだろう。しかし、早晩巣は壊滅するはずである。
 とすると、土を盛り返して見せた、モグラの本能の、見事な顕示をありがたく見るよりほかはない。ああ寂しい、ああ気の毒。人はモグラと共存は出来ないのよ。

 100歳になられた「ぞうさん」詩人の、まど・みつおさんに「もぐら」という30行詩がある。その一節。
   もぐらは もともと もぐらだから
   もぐらなくては もったいなくて
   もうろくするまで もぐるのか
 もぐらさんは、これを納得しますかな。

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