捨てられちゃった稲苗、あわれ
ときどき、慈恵医大の柏病院に行く。回りには薬局が、ずらりと顔を並べているが、まだ田んぼが残っている。早苗がぐんぐん育っている。そのあぜ道を歩く。なにか昔の小学唱歌があるような気がするが思いつかない。
野道を行けば、と言うのがあったと思うが続かない。
そのあぜ道に、枯れ果てた苗箱の一つが捨てられていた。もう植えるところがないので放置されたのだろう。若い緑に輝いていた苗群である。あわれ。数百本はあるのだろう。
農家にそんな感傷はないだろう。感傷に浸かっているヒマはないだろう。
唱歌の代わりに、西条八十の詩を思い出した。
落ち葉よ落ちてつめたかろ 私の袂に入れてあげよ。
日なたに霜のとけるまで 私の袂に入れてあげよ。
苗の数百本、それもすっかり枯れた薄茶色の苗。袂に入れたところで、落ち葉のように蘇生はしない。なでてみる。息を吹きかける。