街行くオンナの品定め
陽光がサンサンと照るようになると、いつもアーウィン・ショーの短編「夏服を着た女たち」を読む。何年か前、同人雑誌に書いた感懐が出てきた。少しも偉くならず、少しも成長していない自分に気がつく。こんな具合に書いている。
中年の夫婦が、ニューヨ-クの五番街を散歩している。11月の話だが、何となく春うらら、かつ初夏の感じである。亭主は出会う女性ことごとくに目を走らせる。女房は、それが気に食わない。
そして言うのである。
「あなたっていつもよその女性を見るのね」(常盤新平訳)
「あなたは、いつもほかの女の人を見るのね」(小笠原豊樹訳)
ショーの原文はこうである。
“You always look at other women”
辞書でotherをひく。additional、furtherと出る。その上の、まだほかの、ということになる。とすれば、「よその女性」、「ほかの女性」ではちょっとずれた、あるいはありふれた日本語を使ったな、という気がする。
もとより、当方にショーの語義が分かるほどの知恵はない。
-look at other women と反復しながら町を歩いていれば、よその女性、ほかの女では納得がゆかなくなる。
「あなたは、いつも女の人ばかり見ているのね」ではどうでしょうか、ショーさん。
女房は泣くのである。亭主はケツをまくる。「僕はどうしても彼女たちを見てしまう。つい彼女たちが欲しくなってくる」それでも、「電話をかけに行く女房の後姿を見て、「なんてかわいらしい女だろう、なんて素敵な脚だろうと思った」(常盤訳)で終る。
アメリカ女性はすぐ泣く。
試しに日本女性の女房と街を歩き、アメリカ亭主の真似をしても、一向に動じることなく、「街の品定め」に乗ってくる。
それは幸せというものであるか。