花びらが散り、続いて桜蘂が降る
桜の樹は4態を見せる。
まず裸木あり。それが、満開のいじらしさとなる。そのいじらしさが遅れに遅れ、われらが花見には完全に閉じていた。いじわるさである。もうひとつの花見は雨だった。空つ神のいじわるさである。
花びらが散って若葉が出始める前の一瞬、「一瞬」ですぞ。もちろん秒単位の話ではない。桜蕊(さくらしべ)が残る。これが桃色である。白の花びらの後に、桜樹は全山を桃色で覆うのである。
この時が撮れない。チャンスがつかめないのである。遠目に桃色の桜並木を見ることはあるが、たいていは後れをとる。若葉の伸び来るのが素早いのである。若葉と蕊の、これもひとときの饗宴もいい。
この桜蘂の降ってくる(落ちてくる)のを詠んだ句がある。
桜蘂降るやさしさを有難う 高橋謙次郎
散った花びらが路上を埋め、やがて蕊が折り重なる。
春は刻々と過ぎ去っていく。
今年の異常気象は、刻々と人をあわてさせ、桜もうろうろした。