…告げて応ふる人はあらずも
昨22年の宮中歌会始に選者として出席していた河野裕子さんが、8月には死去されたことは残念なことだった。
ご主人の歌人・永田和宏さんが4ヶ月たった歳末、日経紙に「後の日々」というエッセイを載せていた。最後は呟くように出てくる言葉を家族で書き留めていたと言う。
「最後の一首となったのは、
手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が
という歌。この一首を私が私自身での手で書き写せたことを、幸せなことだと思っている。」
そのエッセイの中で裕子の歌を紹介している。
ご飯を炊く 誰かのために死ぬ日までごはんを炊けるわたしでゐたい
何年もかかりて死ぬのがきつといいあなたのご飯と歌だけく作つて
亡くなる日にも、「あなた、ごはんは?」と尋ねたと言う。エッセイの終わりで、永田さんは書く。あれから外食はしない、自分で作って食べている。
「傑出した女流歌人を書き残すことと、そのためにしっかり食べて自分を養うこと以外のことではないだろうと思うのである。」
永田さんは今年の歌会始に選者として出席している。その歌、
青葉木菟が鳴いてゐるよと告げたきに告げて応ふる人はあらずも
よく似ている。触れたきに 告げたきに 夫妻はここでも韻を合わせているような。