ひとことで感想は言えない


町会の集まりが終わって帰りかけたところ,Kさんがいう。
「カッターの写真が友人から届きました。メールでお送りします」
 それを隣で小耳に挟んだOさんが、「カッターだって、俺もやったぞ」
 KさんとOさんは顔を見合わせる。Kさんは海軍年少兵だった。カッターはやったにしても戦争はあえなく終わってしまった。Oさんは予科練だ。こちらも飛行機に乗らずに終戦となる。どちらも中途半端な海軍軍人であった。
 
 ひと足遅れ、軍務につくことのなかった当方は、ひそかに二人の海軍軍人に挙手の礼をする。そして今日あるを祝福する。
 Kさんはときどき友人が送ってきたといって、年少兵時代の写真を見せてくれる。自分のものはないのである。それを聞いた。
 「終戦のときみんな燃やしてしまったんです。そういう命令が出ていたもので」と残念そうにいう。なるほど軍隊の機密はみんな燃やしたという話は、あちこちで聞かされた。まじめなKさんが燃やしてしまったのは当然だったろう。
 それを知った友人=戦友が届けてくれるのだろう。
 
 カッターの写真は鮮明を欠くがカッコいい。そのうらには幼い年少兵の汗と血と涙が隠されているはずである。カッコ言いねと一言で感想を言ういうわけにはいかない。