突然出現した「最後の一葉」
植木屋に、そういう意識はなかっただろう。
狭い庭に、50年前に市から貰った柏の苗木が大きくなった。大木にならないようテッペンをつめ、枝を切るように頼んだ。そして「最後の一葉」がすがりつく景観を現出してくれたのである。何という巧みであるか。
オー・ヘンリーの「最後の一葉」ではないか。窓を開けると、壁にクズの葉が一枚だけ張り付いている。見ているのは病人である。あの最後の葉が散ったなら、私も死ぬだろう。
風雨がふた晩荒れる。でも葉は落ちなかった。オー・ヘンリー流のどんでん返しとなる。最後の一葉は絵であった。風雨の中、画家の友人がかき込んだのだ。その友人は、かぜを引いてだったか、死んでしまうのである。
オー・ヘンリーはともかく、一葉を遺してくれた植木屋の絶妙な手並みを考える。1枚だけというのは、本当に偶然か。彼の作為か。そんなことを考えている。
いや人生にはこういうこともある。