初めてもらった返歌

先輩と同級生の奥さんが亡くなった。  
 ふたりとも歌人である。とりあえず哀悼の意をこめて一首おくった。
 
   先に行く後から行くと思へども先に行くのは寂しかるらん

 よく短歌をおくることがある。意足らずもあれば、冗漫もある。即興歌人だからやむをえない。でも返歌が来ることは、いまだかつてない。

 それ江が同級生のありがたさである。ありがたさといっては不遜か。妻を送って2ヶ月足らずなのに「返歌」をくれた。

 妻逝きて前世後世を思いみる永久の命の中にわれあり

 電話がかかてきた。歎異抄や教行信証を読み、仏教に深く立ち入った。人の命は大河の流れのように絶えることはない、連綿と生き続けていく。そういうことを妻に教えておきたかった。教える時間がほしかった。そして上の一首を迷うがごとく、ゆっくり読み上げてくれた。
 初めてもらった返歌ではないか。
 奥さんに会ったことはない。でも、永久の命の中に、われも妻もあるはずだ。

 先輩からは何の便りもない。
ご冥福をお祈りします。

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