すぐ忘れる血圧の数字
循環器の医者に行く。一ヶ月に一度である。患者が多い、一時間待ちで、診察室に入る。先生が血圧を測ってくださる。
終わって薬局に寄る。女性薬剤師が血圧はいくらでしたかと聞く。数字などすっかり忘れている。それが、そもそも最初の事件だった。あきれたような顔をされる。
二回目からは数字を覚えていった。でも靴を履く頃には忘れている。普通ですね、と先生が言ったのだから、とっさに捏造すればいい。その智恵がない。
薬をくれればいい、余計なことを聞くな。と思うがそれも仕事のうちか。数字を言ったところで、薬剤師嬢は、鉛筆の上のほうを持ってなぐり書きをするだけである。きちんと書き込んでいるか、どうかは一目瞭然なのである。
されど、この血圧の数字さえ覚えきれない、忘れているオレは、いったい何者であるか。気になり始めてきた。数年前からのことである。
精神衛生的によろしくない。この話しがなんとなく、先生ー看護師さんに伝わって、ときには数字のメモを渡される。
精神衛生的にますますよろしくない。