絵本になった「真間の手児奈 」
市川にいまも生きる美女伝説を市民団体が絵本にした
「満月のように満ちたりた美しい顔に、花のようなほほえみ…」と、万葉集の伝説歌人・高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)が長歌に詠んだ〈勝鹿の真間娘子(かつしかのままのおとめ)〉は、市川市に残る伝説の美女、真間の手児奈(てごな)のことで、その伝説を同市の市民ボランティア団体「すがの会」(河西明子代表)が絵本にして出版した。
複数の男に言い寄られ美女は入水(万葉集の長歌)
市川市の真間山弘法寺(ぐほうじ)近辺には、手児奈伝説が生きている。手児奈霊堂があり、昔は入り江だったという真間川が流れ、手児奈が水を汲んだという真間の井戸が伝わっている。
高橋虫麻呂の長歌は、美女・手児奈が入水する悲劇を格調高くうたいあげる。
美しい顔に、花のようなほほえみを見せて立っていると、夏の虫が火に飛び込んでくるように、港に入るために船をこぐように、男どもが求婚にやってくる。
人間というものは、いつまでも生きていられないのに、自分のことをよくわきまえ知って、波の音が騒がしく響いている川口の海のほとりの墓に、命を絶って、この娘手児奈は横たわっている。
遠き世の話であるけれど、ほんのきのう見たことのように思われることだ、と虫麻呂は結ぶ。さらに重ねて水を汲んでいたという手児奈が思われる、と反歌を一首添える。
男どもの求婚に心を痛め、入水するのは現代っ子には理解されないとする「すがの会」では、話を変えている。
都からの使いが、国衙(こくが=県庁)を作るから立ち退けと。反対運動が起こったが、みんなの協力で国衙は出来、真間の代表の身麻呂に郡司(市長)になれという。郡司は独身ではなれない。すでに、重い病気になっていた手児奈は、妃にはなれないと入水してしまうのだ。
文章を書いた中津攸子(しゅうこ)さんは、「どんな困難にも立ち向かい、人々の生活を守るために生きることがどんなにすばらしいことか、気づいてくれれば」、とあとがきで書いています。
「欣也の柏探訪」の筆者としては、子どもたちが虫麻呂の原典も理解できるよう期待しています。
この絵本が出たころ「健康都市いちかわ」を宣言している同市で、健康都市連合(代表市=中国・蘇州市)の国際会議が開かれ、世界から約500人が参加、その人たちに絵本と解説書が配られた。手児奈は一躍、世界の手児奈となった。
絵本は、すがの会の代表河西明子さん(TEL:047(322)8087)が扱っている。1,000円+送料