変わる市川民話
天然痘であばたが出来たけれど、絵本の中では美しい姫になった
その1 姫はそのときでは治らない病気にかかってお顔にできもんができたんで、うばをつれて大海に出たんですって、らい病だったかもしれませんね。それで、死のうと思ったんでしょうが…。
その2 おひめさまは、うすぎぬをかぶっていらっしゃいましたが、そのすけた顔を見て村人は「あっ」と声を上げ、そのまま逃げるようにして外に飛び出したのです。
その1は、市川市奉免(ほうめ)の聞き書き、その2は市川市に伝わる民話「流れついたおひめさま」、姫のあばた顔を見た村人が驚いて逃げるところ。しかし、新しく制作された絵本では美女になって登場する。
市川のグループ「すがの会」制作の絵本『奉免の常盤井姫』は、後深草天皇の皇女が、16歳のとき、天然痘にかかってしまい、皆に移してはいけないと、老女と御殿を抜け出すところから始まる。
舟が着いたところは美女が崎と呼び、二人は小さな庵で暮らす。村人が食べ物を届けてくれる。姫は都を偲び、琵琶を奏でて過ごす。身にまとったうすぎぬをはずすことはない。
姫は誘われて日蓮上人の説教を聴き、やがて日国(にっこく)と名乗って尼になり、日本最初の日蓮宗の尼寺安楽寺を建てる。
幕府が全国の土地から税を取り立てるが、日国のいたところは税を免じられ、村人は、その地を奉免(ほうめ)と呼ぶようになった。姫のお逮夜には、今でも村人が安楽寺に集まり墓参りをし供養している。
透き通ったうすぎぬ越しに見える絵本の姫には痘痕(あばた)などの痕跡はなく、できもんもなく、らい病の気配もない。常に美しい。画家の筆遣いも楽しい。絵本は絵のような美しい本でなければならない。
しかし、村人が、すけたうすぎぬ越しの顔を見て仰天、逃げ去るという場面のある『流れついたおひめさま』では、きれいごとだけではない民話らしい雰囲気が伝えられている。「市川民話の会」が収集している。
「奉免の常盤井姫」は一冊千円。「すがの会」の代表河西明子さんに連絡のこと。
047(322)8087